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少年探偵団

 江戸川乱歩著 出版:1937年

東京に現れた「黒い魔物」により次々と少女が誘拐されていく。少年探偵団と明智先生によって犯人を追いかけるのだが。。

江戸川乱歩の代表作。

16.黄金の塔

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二十面相は、いよいよ正体をあらわしました。そして、これからは大っぴらに、怪盗二十面相として、例の宝石や美術品ばかりをねらう、ふしぎな魔術の泥棒をはじめようというわけです。

 新聞によって、これを知った東京都民は、黒い魔物のうわさを聞いたときにもまして、ふるえあがってしまいました。ことに美術品をたくさんたくわえている富豪などは、心配のために、夜もおちおちねむられないというありさまです。なにしろ、政府の博物館までおそって、美術品をすっかりぬすもうとしたほどの、おそろしい大盗賊ですからね。

 さて、軽気球さわぎがあってから、十日ほどのちのことです。東京のある夕刊新聞が、とつぜん、都民をアッといわせるような、じつにおそろしい記事を掲載しました。その記事というのは、  わが社編集局は、今暁、怪盗二十面相から一通の書状を受けとった。怪盗は所定の広告料金を封入して、その書状の全文を広告面に掲載してくれと申しこんできたが、本紙に盗賊の広告をのせることはできない。むろんわが社はこの奇怪な申しこみを謝絶した。  右書状には、二十面相は、本月二十五日深夜、大鳥時計店所蔵の有名な「黄金の塔」をぬすみだす決意をした。従来の実例によってもあきらかなとおり、二十面相は、けっして約束をたがえない。明智小五郎君をはじめ、その筋では、じゅうぶん警戒されるがよろしかろう、という大胆不敵の予告が記されていた。  これは何者かのいたずらかもしれない。しかし、従来の二十面相のやり口を考えると、かならずしもいたずらとのみ言いきれないふしがあるので、わが社は、この書状をただちに警視庁当局に提出し、いっぽう大鳥時計店にも、このおもむきを報告した。

と記し、つづいて「黄金の塔」の由来や、二十面相の従来の手口、明智名探偵の訪問記事などを、ながながと掲載しました。社会面六段ぬきの大見出しで、明智探偵の大きな写真までのせているのです。

 新聞記事には、有名な「黄金の塔」とあります。いったい、どんなふうに有名なのでしょうか。それについて、少し説明しておかなければなりません。

 大鳥時計店というのは、中央区の一角に高い時計塔をもつ、東京でも一―二をあらそう老舗です。そこの主人大鳥清蔵老人は、ひじょうにはでずきなかわり者で、大の浅草観音の信者なのですが、あるとき、浅草観音の五重の塔の模型を商売ものの純金でつくらせ、家宝にすることを思いたちました。

 そして、できあがったのは、屋根の広さ約十二センチ平方、高さ七十五センチという、りっぱな黄金塔で、こまかいところまで、浅草の塔にそっくりの、精巧な細工でした。しかも、塔の中はからっぽではなく、すっかり純金でうずまっているのですから、ぜんたいの目方は八十キロをこえ、材料の金だけでも時価五百万円ほどの高価なものでした。

 ちょうどこの黄金塔ができあがったころ、同業者の銀座の某時計店に、ショーウィンドーやぶりの賊があって、そこに陳列してあった二百万円の金塊がぬすまれたというさわぎがおこったものですから、大鳥氏は、せっかく苦心してつくらせた黄金塔が、同じようにぬすまれてはたいへんだと、今まで店の間にかざっておいたのを、にわかに奥まった部屋にうつし、いろいろな防備をほどこし、盗難にそなえました。

 その奥座敷は十畳の日本間なのですが、まず、まわりのふすまや障子をぜんぶ、がんじょうな板戸にかえ、それに、いちいち錠前をつけ、かぎは主人と支配人の門野老人のふたりだけが、はだ身はなさず持っていることにしました。これが第一の関所です。

 もし賊が、この板戸をどうかしてひらくことができたとしても、その中には、さらに第二の関所があります。それは部屋のまわりの畳の下に電気じかけがあって、賊がどこからはいったとしても、その部屋の畳をふみさえすれば、たちまち家中のベルが、けたたましく鳴りひびくという装置なのです。

 しかし、関所はこの二つだけではありません。第三のいちばんおそろしい関所が、最後にひかえています。

 黄金塔は、広さ六十センチ四方、高さ一メートル三十センチほどの、長い箱の形をした、りっぱな木製のわくの中に入れて、その部屋の床の間に安置してあるのですが、この木のわくが、くせものなのです。

 本来ならば、このわくには四ほうにガラスをはるわけですが、大鳥氏はわざとガラスをはらず、だれでも自由に黄金塔に手をふれることができるようにしておきました。そのかわりに、わくの四すみの太い柱のかげに、赤外線防備装置という、おそろしいしかけがかくされていたのです。

 四本の柱に三ヵ所ずつ、つごう十二ヵ所に、赤外線を発射する光線をとりつけて、一口にいえば、黄金塔の上下左右を、目に見えぬ赤外光線のひもでつつんでしまってあるわけです。そして、もし、だれかが黄金塔に手をふれようとして、赤外線をさえぎりますと、べつの電気じかけに反応して、たちまちベルが鳴りひびくと同時に、そのさえぎったものの方向へ、ピストルが発射されるというおそろしい装置です。木のわくの上下のすみには、外部からは見えぬように、八丁の小型ピストルが、実弾をこめて、まるで小さな砲台のようにすえつけてあるのです。ただ、盗難をふせぐだけならば、黄金塔を大きな金庫の中へでも入れてしまえばいいのですが、大鳥氏は、せっかくこしらえさせたじまんの宝物を、人にも見せないで、しまいこんでおく気にはなれませんでした。そこで、気心の知れたお客さまには、じゅうぶん見せびらかすことができるように、こんな大げさな装置を考案したわけです。むろん、お客さまに見せるときは、わくの柱のかげにある秘密のボタンをおして、赤外線の放射をとめておくわけです。

 高価な純金の塔そのものも、たいへん世間をおどろかせましたが、この念入りな防備装置のうわさが、いっそう世評を高めたのです。むろん、大鳥時計店では防備装置のことをかたく秘密にしておいたのですけれど、いつとはなく輪に輪をかけたうわさとなって、世間にひろがり、塔のおいてある部屋にはいると、足がすくみ、からだがしびれてしまうのだとか、鋼鉄でできた人造人間が番をしていて、あやしいものがしのびよれば、たちまちつかみ殺してしまうのだとか、いろいろの奇妙な評判がたって、それが新聞にものり、今ではだれ知らぬものもないほどになっていました。

 二十面相はそこへ目をつけたのです。一夜に千万円もの美術品をぬすんだこともある二十面相のことですから、黄金の塔そのものは、さほどほしいとも思わなかったでしょうが、それよりも、うわさに高いげんじゅうな防備装置にひきつけられたのです。人のおそれる秘密のしかけをやぶって、まんまと塔をぬすみだし、世間をアッといわせたいのにちがいありません。

「どうだ、おれには、それほどの腕まえがあるんだぞ。」

 と、いばってみせたいのです。警察や明智名探偵を出しぬいて、「ざまをみろ。」と笑いたいのです。二十面相ほどの盗賊になりますと、盗賊にもこんな負けぬ気があるのです。

 名探偵明智小五郎は、その夕刊新聞の記事を読みました。翌日には、大鳥時計店の主人が、わざわざ探偵の事務所をたずねてきて、黄金塔の保護を依頼して帰りました。そして、名探偵は、むろんこの事件をひきうけたのです。

 前の事件で、軽気球のトリックにかかったのは、中村捜査係長はじめ、警官隊の人たちでしたが、明智にも責任がないとはいえません。賊に出しぬかれたうらみは、人いちばい感じているのです。こんどこそ、みごとに二十面相をとらえて恥辱をそそがなければなりません。名探偵のまゆには深い決意の色がただよっていました。

 ああ、なんだか心配ではありませんか。怪盗二十面相は、どんな魔術によって、黄金塔をぬすみだそうというのでしょう。名探偵は、はたしてそれをふせぐことができるでしょうか。探偵と怪人の一騎うちの知恵くらべです。悪人は悪人の名まえにかけて、名探偵は名探偵の名まえにかけて、おたがいに、こんどこそ負けてはならぬ真剣勝負です。

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この作品は現在パブリックドメインのため、古典の本棚に掲載しております。