Brighten up your day !!

怪人二十面相

 江戸川乱歩著 出版:1936年

怪人二十面相は、1936年から連載された「少年探偵シリーズ」の第一作。

東京の至る所に現れ、宝石や美術品を盗む怪人二十面相。怪人二十面相には、必ず前もって予告状を送る奇妙な癖がった。怪人二十面相と明智小五郎、そしてその助手である小林少年と少年探偵団の活躍を描く第一作。

21.トランクとエレベーター

0

名探偵は、プラットホームで賊をとらえようと思えば、なんのわけもなかったのです。どうして、この好機会を見のがしてしまったのでしょう。読者諸君は、くやしく思っているかもしれませんね。
 しかし、これは名探偵の自信がどれほど強いかを語るものです。賊を見くびっていればこそ、こういう放れわざができるのです。探偵は博物館の宝物には、賊の一指をもそめさせない自信がありました。例の美術城の宝物も、そのほかのかぞえきれぬ盗難品も、すっかり取りかえす信念がありました。
 それには、今、賊をとらえてしまっては、かえって不利なのです。二十面相には、多くの手下があります。もし首領がとらえられたならば、その部下のものが、ぬすみためた宝物を、どんなふうに処分してしまうか、知れたものではないからです。逮捕は、そのたいせつな宝物のかくし場所をたしかめてからでもおそくはありません。
 そこで、せっかく出むかえてくれた賊を、失望させるよりは、いっそ、そのさそいに乗ったと見せかけ、二十面相の知恵の程度をためしてみるのも、一興であろうと考えたのでした。
「明智君、今のぼくの立ち場というものを、ひとつ想像してみたまえ。きみは、ぼくをとらえようと思えば、いつだってできるのですぜ。ほら、そこのベルをおせばいいのだ。そしてボーイにおまわりさんを呼んでこいと命じさえすればいいのだ。ハハハ……、なんてすばらしい冒険だ。この気持、きみにわかりますか。命がけですよ。ぼくは今、何十メートルとも知れぬ絶壁の、とっぱなに立っているのですよ。」
 二十面相はあくまで不敵です。そういいながら、目を細くして探偵の顔を見つめ、さもおかしそうに大声に笑いだすのでした。
「ハハハ……。」
 明智小五郎も、負けない大笑いをしました。
「きみ、なにもそうビクビクすることはありゃしない。きみの正体を知りながら、ノコノコここまでやってきたぼくだもの、今、きみをとらえる気なんか少しもないのだよ。ぼくはただ、有名な二十面相君と、ちょっと話をしてみたかっただけさ。なあに、きみをとらえることなんか、急ぐことはありゃしない。博物館の襲撃まで、まだ九日間もあるじゃないか。まあ、ゆっくり、きみのむだ骨折りを拝見するつもりだよ。」
「ああ、さすがは名探偵だねえ。太っぱらだねえ。ぼくは、きみにほれこんでしまったよ……。ところでと、きみのほうでぼくをとらえないとすれば、どうやら、ぼくのほうで、きみをとりこにすることになりそうだねえ。」
 二十面相はだんだん、声の調子をすごくしながら、ニヤニヤとうすきみ悪く笑うのでした。
「明智君、こわくはないかね。それともきみは、ぼくが無意味にきみをここへつれこんだとでも思っているのかい。ぼくのほうに、なんの用意もないと思っているのかね。ぼくがだまって、きみをこの部屋から外へ出すとでも、かんちがいしているのじゃないのかね。」
「さあ、どうだかねえ。きみがいくら出さないといっても、ぼくはむろんここを出ていくよ。これから外務省へ行かなければならない。いそがしいからだだからね。」
 明智はいいながら、ゆっくり立ちあがって、ドアとは反対のほうへ歩いていきました。そして、なにか景色でもながめるように、のんきらしく、ガラスごしに窓の外を見やって、かるくあくびをしながら、ハンカチをとりだして、顔をぬぐっております。
 そのとき、いつのまにベルをおしたのか、さいぜんのがんじょうなボーイ長と、同じくくっきょうなもうひとりのボーイとが、ドアをあけてツカツカとはいってきました。そして、テーブルの前で、直立不動の姿勢をとりました。
「おい、おい、明智君、きみは、ぼくの力をまだ知らないようだね。ここは鉄道ホテルだからと思って安心しているのじゃないかね。ところがね、きみ、たとえばこのとおりだ。」
 二十面相はそういっておいて、ふたりの大男のボーイのほうをふりむきました。
「きみたち、明智先生にごあいさつ申しあげるんだ。」
 すると、ふたりの男は、たちまち二ひきの野獣のようなものすごい相好になって、いきなり明智を目がけてつき進んできます。
「待ちたまえ、ぼくをどうしようというのだ。」
 明智は窓を背にして、キッと身がまえました。
「わからないかね。ほら、きみの足もとをごらん。ぼくの荷物にしては少し大きすぎるトランクがおいてあるじゃないか。中はからっぽだぜ。つまりきみの棺桶なのさ。このふたりのボーイ君が、きみをいま、そのトランクの中へ埋葬しようってわけさ。ハハハ……。
 さすがの名探偵も、ちっとはおどろいたかね。ぼくの部下のものが、ホテルのボーイにはいりこんでいようとは少し意外だったねえ。
 いや、きみ、声をたてたってむだだよ。両どなりとも、ぼくの借りきりの部屋なんだ。それから念のためにいっておくがね、ここにいるぼくの部下はふたりきりじゃない。じゃまのはいらないように、廊下にもちゃんと身はり番がついているんだぜ。」
 ああ、なんという不覚でしょう。名探偵は、まんまと敵のわなにおちいったのです。それと知りながら、このんで火の中へとびこんだようなものです。これほど用意がととのっていては、もうのがれるすべはありません。
 血のきらいな二十面相のことですから、まさか命をうばうようなことはしないでしょうけれど、なんといっても、賊にとっては警察よりもじゃまになる明智小五郎です。トランクの中へとじこめて、どこか人知れぬ場所へ運びさり、博物館の襲撃を終わるまで、とりこにしておこうという考えにちがいありません。
 ふたりの大男は問答無益とばかり、明智の身辺にせまってきましたが、今にもとびかかろうとして、ちょっとためらっております。名探偵の身にそなわる威力にうたれたのです。
 でも、力ではふたりにひとり、いや、三人にひとりなのですから、明智小五郎がいかに強くても、かないっこはありません。ああ、かれは帰朝そうそう、はやくもこの大盗賊のとりことなり、探偵にとって最大の恥辱を受けなければならない運命なのでしょうか。ああ、ほんとうにそうなのでしょうか。
 しかし、ごらんなさい、われらの名探偵は、この危急にさいしても、やっぱりあのほがらかな笑顔をつづけているではありませんか。そして、その笑顔が、おかしくてたまらないというように、だんだんくずれてくるではありませんか。
「ハハハ……。」
 笑いとばされて、ふたりのボーイは、キツネにでもつままれたように口をポカンとあいて、立ちすくんでしまいました。
「明智君、からいばりはよしたまえ。何がおかしいんだ。それともきみは、おそろしさに気でもちがったのか。」
 二十面相は相手の真意をはかりかねて、ただ毒口をたたくほかはありませんでした。
「いや、しっけい、しっけい、つい、きみたちの大まじめなお芝居がおもしろかったものだからね。だが、ちょっときみ、ここへ来てごらん。そして、窓の外をのぞいてごらん。みょうなものが見えるんだから。」
「何が見えるもんか。そちらはプラットホームの屋根ばかりじゃないか。へんなことをいって一寸のがれをしようなんて、明智小五郎も、もうろくしたもんだねえ。」
 でも、賊は、なんとなく気がかりで、窓のほうへ近よらないではいられませんでした。
「ハハハ……、もちろん屋根ばかりさ。だが、その屋根の向こうにみょうなものがいるんだ。ほらね、こちらのほうだよ。」
 明智は指さしながら、
「屋根と屋根とのあいだから、ちょっと見えているプラットホームに、黒いものがうずくまっているだろう。子どものようだね。小さな望遠鏡で、しきりと、この窓をながめているじゃないか。あの子ども、なんだか見たような顔だねえ。」
 読者諸君は、それがだれだか、もうとっくにお察しのことと思います。そうです。お察しのとおり明智探偵の名助手小林少年です。小林君は例の七つ道具の一つ、万年筆型の望遠鏡で、ホテルの窓をのぞきながら、何かのあいずを待ちかまえているようすです。
「あ、小林の小僧だな。じゃ、あいつは家へ帰らなかったのか。」
「そうだよ。ぼくがどの部屋へはいるか、ホテルの玄関で問いあわせて、その部屋の窓を、注意して見はっているようにいいつけているのだよ。」
 しかし、それが何を意味するのか、賊にはまだのみこめませんでした。
「それで、どうしようっていうんだ。」
 二十面相は、だんだん不安になりながら、おそろしいけんまくで、明智につめよりました。
「これをごらん。ぼくの手をごらん。きみたちがぼくをどうかすれば、このハンカチが、ヒラヒラと窓の外へ落ちていくのだよ。」
 見ると、明智の右の手首が、少しひらかれた窓の下部から、外へ出ていて、その指先にまっ白なハンカチがつままれています。
「これが、あいずなのさ。すると、あの子どもは駅の事務室にかけこむんだ。それから電話のベルが鳴る。そして警官隊がかけつけて、ホテルの出入り口をかためるまで、そうだね、五分もあればじゅうぶんだとは思わないかね。ぼくは五分や十分、きみたち三人を相手に抵抗する力はあるつもりだよ。ハハハ……、どうだい、この指をパッとひらこうかね、そうすれば、二十面相逮捕のすばらしい大場面が、見物できようというものだが。」
 賊は、窓の外につきだされた明智のハンカチと、プラットホームの小林少年の姿とを、見くらべながら、くやしそうにしばらく考えていましたが、けっきょく、不利をさとったのか、やや顔色をやわらげていうのでした。
「で、もしぼくのほうで手をひいて、きみをぶじに帰すばあいには、そのハンカチは落とさないですますつもりだろうね。つまり、きみの自由とぼくの自由との、交換というわけだからね。」
「むろんだよ。さっきからいうとおり、ぼくのほうには今君をとらえる考えは少しもないのだ。もしとらえるつもりなら、何もこんなまわりくどいハンカチのあいずなんかいりゃしない。小林君に、すぐ警察へうったえさせるよ。そうすれば、いまごろはきみは警察のおりの中にいたはずだぜ。ハハハ……。」
「だが、きみもふしぎな男じゃないか。そうまでして、このおれを逃がしたいのか。」
「ウン、今やすやすととらえるのは、少しおしいような気がするのさ。いずれ、きみをとらえるときには、大ぜいの部下も、ぬすみためた美術品の数々も、すっかり一網に手に入れてしまうつもりだよ。少し欲ばりすぎているだろうかねえ。ハハハ……。」
 二十面相は長いあいだ、さもくやしそうに、くちびるをかんでだまりこんでいましたが、やがて、ふと気をかえたように、にわかに笑いだしました。
「さすがは明智小五郎だ。そうなくてはならないよ……。マア気を悪くしないでくれたまえ。今のは、ちょっときみの気をひいてみたまでさ。けっして本気じゃないよ。では、きょうは、これでお別れとして、きみを玄関までお送りしよう。」
 でも、探偵は、そんなあまい口に乗って、すぐ、ゆだんしてしまうほど、お人よしではありませんでした。
「お別れするのはいいがね。このボーイ諸君が少々目ざわりだねえ。まず、このふたりと、それから廊下にいるお仲間を、台所のほうへ追いやってもらいたいものだねえ。」
 賊は、べつにさからいもせず、すぐボーイたちに、たちさるように命じ、入り口のドアを大きくひらいて、廊下が見通せるようにしました。
「これでいいかね。ほら、あいつらが階段をおりていく足音が聞こえるだろう。」
 明智はやっと窓ぎわをはなれ、ハンカチをポケットにおさめました。まさか鉄道ホテルぜんたいが賊のために占領されているはずはありませんから、廊下へ出てしまえば、もう大じょうぶです。少しはなれた部屋には、客もいるようすですし、そのへんの廊下には、賊の部下でない、ほんとうのボーイも歩いているのですから。
 ふたりは、まるで、親しい友だちのように、肩をならべて、エレベーターの前まで歩いていきました。エレベーターの入り口はあいたままで、二十歳ぐらいの制服のエレベーター・ボーイが、人待ち顔にたたずんでいます。
 明智はなにげなく、一足先にその中へはいりましたが、
「あ、ぼくはステッキ忘れた。きみは先へおりてください。」
 二十面相のそういう声がしたかと思うと、いきなり鉄のとびらがガラガラとしまって、エレベーターは下降しはじめました。
「へんだな。」
 明智は早くもそれとさとりました。しかし、べつにあわてるようすもなく、じっとエレベーター・ボーイの手もとを見つめています。
 すると案のじょう、エレベーターが二階と一階との中間の、四ほうを壁でとりかこまれた個所までくだると、とつぜんパッタリ運転がとまってしまいました。
「どうしたんだ。」
「すみません。機械に故障ができたようです。少しお待ちください。じきなおりましょうから。」
 ボーイは、申しわけなさそうにいいながら、しきりに、運転機のハンドルのへんをいじくりまわしています。
「なにをしているんだ。のきたまえ。」
 明智はするどくいうと、ボーイの首すじをつかんで、グーッとうしろに引きました。それがあまりひどい力だったものですから、ボーイは思わずエレベーターのすみにしりもちをついてしまいました。
「ごまかしたってだめだよ。ぼくがエレベーターの運転ぐらい知らないと思っているのか。」
 しかりつけておいて、ハンドルをカチッとまわしますと、なんということでしょう。エレベーターは苦もなく下降をはじめたではありませんか。
 階下につくと、明智はやはりハンドルをにぎったまま、まだしりもちをついているボーイの顔を、グッとするどくにらみつけました。その眼光のおそろしさ。年若いボーイはふるえあがって、思わず右のポケットの上を、なにかたいせつなものでもはいっているようにおさえるのでした。
 機敏な探偵は、その表情と手の動きを見のがしませんでした。いきなりとびついていって、おさえているポケットに手を入れ、一枚の紙幣を取りだしてしまいました。千円札です。エレベーター・ボーイは、二十面相の部下のために、千円札で買収されていたのでした。
 賊はそうして、五分か十分のあいだ、探偵をエレベーターの中にとじこめておいて、そのひまに階段のほうからコッソリ逃げさろうとしたのです。いくら大胆不敵の二十面相でも、もう正体がわかってしまった今、探偵と肩をならべて、ホテルの人たちや泊まり客のむらがっている玄関を、通りぬける勇気はなかったのです。明智はけっしてとらえないといっていますけれど、賊の身にしては、それをことばどおり信用するわけにはいきませんからね。
 名探偵はエレベーターをとびだすと、廊下を一とびに、玄関へかけだしました。すると、ちょうどまにあって、二十面相の辻野氏が表の石段を、ゆうぜんとおりていくところでした。
「や、しっけい、しっけい、ちょっとエレベーターに故障があったものですからね、ついおくれてしまいましたよ。」
 明智は、やっぱりにこにこ笑いながら、うしろから辻野氏の肩をポンとたたきました。
 ハッとふりむいて、明智の姿をみとめた、辻野氏の顔といったらありませんでした。賊はエレベーターの計略が、てっきり成功するものと信じきっていたのですから。顔色をかえるほどおどろいたのも、けっしてむりではありません。
「ハハハ……、どうかなすったのですか、辻野さん、少しお顔色がよくないようですね。ああ、それから、これをね、あのエレベーター・ボーイから、あなたにわたしてくれってたのまれてきました。ボーイがいってましたよ、相手が悪くてエレベーターの動かし方を知っていたので、どうもご命令どおりに長くとめておくわけにはいきませんでした。あしからずってね。ハハハ……。」
 明智はさもゆかいそうに、大笑いをしながら、例の千円札を、二十面相の面前で二―三度ヒラヒラさせてから、それを相手の手ににぎらせますと、
「ではさようなら。いずれ近いうちに。」
といったかと思うと、クルッと向きをかえて、なんのみれんもなく、あとをも見ずに立ちさってしまいました。
 辻野氏は千円札をにぎったまま、あっけにとられて、名探偵のうしろ姿を見おくっていましたが、
「チェッ。」
と、いまいましそうに舌うちすると、そこに待たせてあった自動車を呼ぶのでした。
 このようにして名探偵と大盗賊の初対面の小手しらべは、みごとに探偵の勝利に帰しました。賊にしてみれば、いつでもとらえようと思えばとらえられるのを、そのまま見のがしてもらったわけですから、二十面相の名にかけて、これほどの恥辱はないわけです。
「このしかえしは、きっとしてやるぞ。」
 彼は明智のうしろ姿に、にぎりこぶしをふるって、思わずのろいのことばをつぶやかないではいられませんでした。

0
  • 1.はしがき

    0 そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわして…


  • 2.鉄のわな

    0 麻布の、とあるやしき町に、百メートル四方もあるような大邸宅があります。 四メートルぐらいもありそうな、高い高いコンクリート塀が、ズーッと、目もはるかにつづいています。いかめしい鉄のとびらの門をはいると、大きなソテツが…


  • 3.人か魔か

    0 その午後には、羽柴一家総動員をして、帰朝の壮一君を、羽田空港に出むかえました。 飛行機からおりたった壮一君は、予期にたがわず、じつにさっそうたる姿でした。こげ茶色の薄がいとうを小わきにして、同じ色のダブル・ボタンの背…


  • 4.魔法使い

    0 しばらくのあいだ、ふたりともだまりこくって、青ざめた顔を、見あわせるばかりでしたが、やっと壮太郎氏は、さもいまいましそうに、「ふしぎだ。」と、つぶやきました。「ふしぎですね。」 壮一君も、おうむがえしに同じことをつぶ…


  • 5.池の中

    0 賊がピストルを投げだして、外へとびおりたのを見ると、壮太郎氏はすぐさま、窓のところへかけつけ、暗い庭を見おろしました。 暗いといっても、庭には、ところどころに、公園の常夜燈のような、電燈がついているので、人の姿が見え…


  • 6.樹上の怪人

    0 それから、池の岸で、どんなことがおこったかは、しばらく読者諸君のご想像にまかせます。 五―六分ののちには、以前の松野運転手が、なにごともなかったように、同じ池の岸に立っておりました。少し息づかいがはげしいようです。そ…


  • 7.壮二君のゆくえ

    0 松野の語ったところによりますと、けっきょく、賊は、つぎのようなとっぴな手段によって、まんまと追っ手の目をくらまし、大ぜいの見ている中をやすやすと逃げさったことがわかりました。 人々に追いまわされている間に、賊は庭の池…


  • 8.少年探偵

    0 青年運転手を帰すと、ただちに、主人の壮太郎氏夫妻、近藤老人、それに、学校の用務員さんに送られて、車をとばして帰ってきた早苗さんもくわわって、奥まった部屋に、善後処置の相談がひらかれました。もうぐずぐずしてはいられない…


  • 9.仏像の奇跡

    0 さて、お話はとんで、その夜のできごとにうつります。 午後十時、約束をたがえず、二十面相の部下の三人のあらくれ男が、あけはなったままの、羽柴家の門をくぐりました。 盗人たちは、玄関に立っている秘書などをしりめに、「お約…


  • 10.おとしあな

    0 さすがの怪盗も、これには胆をつぶしました。相手が人間ならばいくらピストルを向けられてもおどろくような賊ではありませんが、古い古い鎌倉時代の観音さまが、いきなり動きだしたのですから、びっくりしないではいられません。 び…


  • 11.七つ道具

    0 小林少年はほとんど二十分ほどのあいだ、地底の暗やみの中で、ついらくしたままの姿勢で、じっとしていました。ひどく腰を打ったものですから、痛さに身動きする気にもなれなかったのです。 そのまに、天井では、二十面相がさんざん…


  • 12.伝書バト

    0 小林少年はふと目をさますと、部屋のようすが、いつもの探偵事務所の寝室とちがっているので、びっくりしましたが、たちまちゆうべのできごとを思いだしました。「ああ、地下室に監禁されていたんだっけ。でも、地下室にしちゃあ、へ…


  • 13.奇妙な取りひき

    0 「少年探偵さん、どうだったね、ゆうべの寝ごこちは。ハハハ……、おや、窓になんだか黒いひもがぶらさがっているじゃないか。ははあ、用意のなわばしごというやつだね。感心、感心、きみは、じつに考えぶかい子どもだねえ。だが、そ…


  • 14.小林少年の勝利

    0 二十面相は、おとし戸のところにしゃがんだまま、今、とりあげたばかりのピストルを、手のひらの上でピョイピョイとはずませながら、とくいの絶頂でした。そして、なおも小林少年をからかってたのしもうと、何かいいかけたときでした…


  • 15.おそろしき挑戦状

    0 戸山ヶ原の廃屋の捕り物があってから二時間ほどのち、警視庁の陰気な調べ室で、怪盗二十面相の取り調べがおこなわれました。なんの飾りもない、うす暗い部屋に机が一脚、そこに中村捜査係長と老人に変装したままの怪盗と、ふたりきり…


  • 16.美術城

    0 伊豆半島の修善寺温泉から四キロほど南、下田街道にそった山の中に、谷口村というごくさびしい村があります。その村はずれの森の中に、みょうなお城のようないかめしいやしきが建っているのです。 まわりには高い土塀をきずき、土塀…


  • 17.名探偵明智小五郎

    0 ネズミ色のトンビに身をつつんだ、小がらの左門老人が、長い坂道をチョコチョコと走らんばかりにして、富士屋旅館についたのは、もう午後一時ごろでした。「明智小五郎先生は?」とたずねますと、裏の谷川へ魚釣りに出かけられました…


  • 18.不安の一夜

    0  日下部左門老人が、修善寺でやとった自動車をとばして、谷口村の「お城」へ帰ってから、三十分ほどして、明智小五郎の一行が到着しました。 一行は、ピッタリと身にあう黒の洋服に着かえた明智探偵のほかに、背広服のくっきょうな…


  • 19.悪魔の知恵

    0 ああ、またしてもありえないことがおこったのです。二十面相というやつは、人間ではなくて、えたいのしれないお化けです。まったく不可能なことを、こんなにやすやすとやってのけるのですからね。 明智はツカツカと部屋の中へはいっ…


  • 20.巨人と怪人

    0 美術城の事件があってから半月ほどたった、ある日の午後、東京駅のプラットホームの人ごみの中に、ひとりのかわいらしい少年の姿が見えました。ほかならぬ小林芳雄君です。読者諸君にはおなじみの明智探偵の少年助手です。 小林君は…


  • 21.トランクとエレベーター

    0 名探偵は、プラットホームで賊をとらえようと思えば、なんのわけもなかったのです。どうして、この好機会を見のがしてしまったのでしょう。読者諸君は、くやしく思っているかもしれませんね。 しかし、これは名探偵の自信がどれほど…


  • 22.二十面相の逮捕

    0 「あ、明智さん、今、あなたをおたずねするところでした。あいつは、どこにいますか。」 明智探偵は、鉄道ホテルから五十メートルも歩いたか歩かぬかに、とつぜん呼びとめられて、立ちどまらなければなりませんでした。「ああ、今西…


  • 23.「わしがほんものじゃ」

    0 「この人でした。この人にちがいありません。」 小林君は、キッパリと答えました。「ハハハ……、どうだね、きみ、子どもの眼力にかかっちゃかなわんだろう。きみが、なんといいのがれようとしたって、もうだめだ。きみは二十面相に…


  • 24.二十面相の新弟子

    0 明智小五郎の住宅は、港区竜土町の閑静なやしき町にありました。名探偵は、まだ若くて美しい文代夫人と、助手の小林少年と、お手伝いさんひとりの、質素な暮らしをしているのでした。 明智探偵が、外務省からある友人の宅へたちよっ…


  • 25.名探偵の危急

    0 「ええ、なんだって、あの野郎をひっさらうんだって、そいつあおもしれえ。ねがってもないことだ。手つだわせてくんねえ。ぜひ手つだわせてくんねえ。で、それはいったい、いつのことなんだ。」 赤井寅三は、もうむちゅうになってた…


  • 26.怪盗の巣くつ

    0 賊の手下の美しい婦人と、乞食と、赤井寅三と、気をうしなった明智小五郎とを乗せた自動車は、さびしい町さびしい町とえらびながら、走りに走って、やがて、代々木の明治神宮を通りすぎ、暗い雑木林の中にポツンと建っている、一軒の…


  • 27.少年探偵団

    0 翌朝になっても明智探偵が帰宅しないものですから、るす宅は大さわぎになりました。 探偵が同伴して出かけた、事件依頼者の婦人の住所がひかえてありましたので、そこをしらべますと、そんな婦人なんか住んでいないことがわかりまし…


  • 28.午後四時

    0 少年探偵団のけなげな捜索は、日曜、月曜、火曜、水曜と、学校の余暇を利用して、忍耐強くつづけられましたが、いつまでたっても、これという手がかりはつかめませんでした。 しかし、東京中の何千人というおとなのおまわりさんにさ…


  • 29.名探偵の狼藉

    0 「え、え、きみは何をいっているんだ。何もぬすまれてなんかいやしないじゃないか。ぼくは、つい今しがた、この目で陳列室をずっと見まわってきたばかりなんだぜ。それに、博物館のまわりには、五十人の警官が配置してあるんだ。ぼく…


  • 30.種明し

    0 「ですが、わたしどもには、どうもわけがわからないのです。あれだけの美術品を、たった一日のあいだに、にせものとすりかえるなんて、人間わざでできることではありません。まあ、にせもののほうは、まえまえから、美術学生かなんか…


  • 31.怪盗捕縛

    0 「だが、明智君。」 警視総監は、説明が終わるのを待ちかまえていたように、明智探偵にたずねました。「きみはまるで、きみ自身が二十面相ででもあるように、美術品盗奪の順序をくわしく説明されたが、それはみんな、きみの想像なの…


この作品は現在パブリックドメインのため、古典の本棚に掲載しております。