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江戸川乱歩全集

少年探偵団

 江戸川乱歩著 出版:1937年

東京に現れた「黒い魔物」により次々と少女が誘拐されていく。少年探偵団と明智先生によって犯人を追いかけるのだが。。

江戸川乱歩の代表作。


8.少年捜索隊


1. 黒い魔物
2. 怪物追跡
3. 人さらい
4. のろいの宝石
5.黒い手
6.ふたりのインド人
7.銀色のメダル
8.少年捜索隊
9.地下室
10.消えるインド人
11.四つのなぞ
12.さかさの首
13.屋上の怪人
14.悪魔の昇天
15.怪軽気球の最後
16.黄金の塔
17.怪少女
18.奇妙なはかりごと
19.天井の声
20.意外また意外
21.きみが二十面相だ!
22.逃走
23.美術室の怪
24.大爆発

8.少年捜索隊

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ちょうどそのころ、篠崎君のおうちの近くの、養源寺の門前を、六人の小学校上級生が、何か話しながら歩いていました。

 先頭に立っているのは、篠崎君の親友の、よくふとった桂正一君です。桂君は、学校で篠崎君からこんどの事件のことを聞いたものですから、まず、いとこの羽柴壮二君に電話をかけ、羽柴君から少年探偵団員に伝えてもらって、一同、桂君のところに勢ぞろいをしたうえ、篠崎家を訪問することになったのです。団員のうち三人は、さしつかえがあって、集まったのは六人だけでした。

 少年探偵団員たちは、仲間のうちに何か不幸があれば、かならず助けあう、というかたい約束をむすんでいました。いま、団員篠崎始君のおうちは、おそろしい悪魔におそわれています。しかも、それが、このあいだから、東京中をさわがせている「黒い怪物」なのですから、少年探偵団は、もう、じっとしているわけにはいきませんでした。ことに彼らの団長の小林少年が、篠崎君の請いにおうじて、出動したことがわかっているものですから、一同、いよいよ勇みたったのです。「黒い怪物」は、ぜひ、われわれの手でとらえて、少年探偵団の手なみを見せようではないかと、団員は、もう、はりきっているのです。

 桂正一君は、養源寺の門前まで来ると、そこに立ちどまって、いつかの晩の冒険について、一同に語りきかせました。読者諸君は、そのとき、黒い怪物が養源寺の墓地の中で、消えうせるように姿をかくしてしまったことを記憶されるでしょう。

「ほんとうにかき消すように見えなくなってしまったんだよ。ぼくは、お化けなんか信じないけれど、墓地の中だろう。それにまっくらな夜だろう、さすがのぼくもゾーッとふるえあがって、やにわに逃げだしてしまったのさ。その墓地っていうのは、この本堂の裏手にあるんだよ。」

 桂君はそういいながら、お寺の門内にはいって、本堂の裏手を指さしました。少年たちも桂君といっしょにぞろぞろと門内にはいり、たそがれ時の、ものさびしい境内を、あちこちと見まわしていましたが、最年少の羽柴壮二君が、何を発見したのか、びっくりしたように、桂君の腕をとらえました。

「正一君、あれ、あれ、あすこを見たまえ。なんだかいるぜ。」

 ほとんどふるえ声になって、壮二君が指さすところを見ますと、いかにも、門の横のいけがきのそばの低い樹木のしげみの中に、何かモコモコとうごめいているものがあります。それが、どうやら人間の足らしいのです。人間の足が、しげみの中からニューッとあらわれて、まるでいも虫みたいに、動いているのです。

 一同それに気づくと、いくら探偵団などといばっていても、やっぱり子どものことですから、ゾッとして立ちすくんでしまいました。おたがいに顔見あわせて、今にも逃げだしそうなようすです。

 むりもありません。物の姿のおぼろに見える夕暮れ時、さびしいお寺の境内で、しかも桂君の怪談を聞かされたばかりのところへ、うす暗いしげみの間から、ふいに人間の足があらわれたのですからね。おとなだって、おびえないではいられなかったでしょう。

「よし、ぼくが見とどけてやろう。」

 さすがに相撲の選手です。桂正一君は、おびえる一同を、その場に残して、ただひとり、しげみのほうへ近づいていきました。

「だれだっ。そこにかくれているのは、だれだっ。」

 大声でどなってみても、相手は少しも返事をしません。といって逃げだすわけでもなく、いも虫のような足が、ますますはげしく動くばかりです。

 桂君は、また二―三歩前進して、しげみのかげをのぞきました。そして、何を見たのか、ギョッとしたように立ちなおりましたが、いきなりうしろをふりむくと、一同を手まねきするのです。

「早く来たまえ、人がしばられているんだよ。ふたりの人が、ぐるぐる巻きにしばられて、ころがっているんだよ。」

 お化けではないとわかると、団員たちは、にわかに勢いづいて、その場へかけだしました。

 見ると、いかにも、そのしげみのかげに、ふたりのおとなが、手と足を、めちゃくちゃにしばられ、さるぐつわまではめられて、よこたわっていました。そのうちのひとりは、着物をはぎとられたとみえて、シャツとズボン下ばかりの、みじめな姿です。

「おや、これは篠崎君とこの秘書だぜ」

 桂少年は、そのシャツ一枚の青年を指さしてさけびました。

 それから、六人がかりで、なわをとき、さるぐつわをはずしてやりますと、ふたりのおとなは、やっと口がきけるようになって、事のしだいを説明しました。

 しばられていたのは、シャツ一枚のほうが篠崎家の秘書今井君、もうひとりの洋服の男は、篠崎家お出入りの自動車運転手でした。

 ふたりの説明を聞くまでもなく、もう読者諸君にはおわかりでしょうが、今井君が、主人のいいつけで自動車を呼びに行き、気心の知れた運転手をえらんで、同乗して篠崎家へひっかえす途中、この養源寺の門前にさしかかると、とつぜんふたりの覆面をした怪漢に呼びとめられ、ピストルをつきつけられて、有無をいわせず、しばりあげられてしまったというのです。

 そして、その怪漢のひとりが、今井君の洋服をはぎとって、今井君に変装をして、ふたりは、うばいとった自動車にとびのると、そのまま運転をして、どこかへ走りさってしまったのだそうです。

 団員たちは、ふたりのおとなといっしょに、ただちに篠崎家にかけつけ、事のしだいを報告しました。それをお聞きになった篠崎君のおとうさま、おかあさまは、もう、まっさおになっておしまいになりました。

 ふたりがこんなめにあわされたからには、さいぜんの自動車は、インド人が変装して運転していたのにちがいない。すると、緑ちゃんも小林君も、今ごろは、彼らの巣くつにつれこまれて、どんなひどいめにあっているかわからないのです。

 すぐさま警察へ電話がかけられる。まもあらせず、所轄警察署からはもちろん、警視庁からも、捜査係長その他が自動車をとばしてくる、篠崎家は、上を下への大さわぎになりました。

 さいわい、自動車の番号がわかっているものですから、たちまち全都の警察へ、その番号の自動車をさがすように手配がおこなわれましたが、しかし、犯人のほうでも、まさかあの自動車を、そのまま門前にとめておくはずはなく、おそらくどこか遠いところへ運転していって、道ばたにすてさったにちがいありませんから、たとえ自動車が発見されたとしても、賊の巣くつをつきとめることは、むずかしそうに思われます。

 いっぽう、篠崎始君をくわえた、七人の少年探偵団員は、なるべく、おとなたちのじゃまをしないように、門の前に勢ぞろいをして、いろいろと相談をしていましたが、ぼくたちも、手をつかねてながめていることはない。警察とはべつに、できるだけはたらいてみようではないかということになり、七人が手分けをして、自動車の走りさった方角を、ひろく歩きまわり、例の聞きこみ捜査をはじめることに一決しました。

 賊の自動車が、玉川電車の線路を、どちらへまがっていったかということだけは、わかっていましたので、七人は肩をならべて、その方角へ歩いていきましたが、四辻に出くわすたびに、ふたりまたは三人ずつの組になって、枝道へはいっていき、たばこ屋の店番をしているおばさんだとか、そのへんを歩いているご用聞きなどに、こういう自動車を見なかったかと、たんねんに聞きこみをやり、なんの手がかりもないばあいは、またもとの電車道に引きかえして、つぎの四辻をさがすというふうに、なかなか組織的な捜査方法をとって、いつまでもあきることなく、歩きまわるのでした。

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この作品は現在パブリックドメインのため、古典の本棚に掲載しております。